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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

」

「お兄様は何とおっしゃるの。お家に似合いませんね。」

「おれの部屋だから構わんのだろう。」

そんな物に趣味を持たぬ父は、お茶の道具を丁寧に片附けながら、「もう鳥の餌を作らねば」と、小さな鉢や木箱などを幾つか取出して、頻りに交ぜたり摺ったりしていられました。

「昔のお薬の調合のことを思出しますね。」

子供は珍しそうに見詰めておりました。

出来上った新築の二階家の玄関は、母の趣味で広い式台が附き、塗縁の障子が建ててありました。「こうして置かねば、お邸のお部屋様やお姫様方をお招きするのに似合わないから」というのでした。旧藩主の方々をお招きしたいというのが、かねてからの母の願いなのです。この二階が観潮楼です。

崖の見晴らしに建てたのですから、俗に雪月花によしというわけで、両国に花火のある夜などは、わざわざ子供を連れて見せに行ったりしました。まだその普請中に行きますと、祖母などが、「もっと近くへ越してお出で。私は出られぬし、ちょいちょい逢いたいから」といわれますし、主人が終生出入する心組の大学へも、それほど遠くもないからと、曙町に地所を見附けて移りました。鶏声が窪といわれた坂上で五百坪ばかり、梅林や大きな栗の木があり、通りかかった人が老松の生繁ったのを見て東海道の松並木のようだといいました。