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あのかお

あの顔

林 不忘

線上閱讀林 不忘《あの顔(あのかお)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,813 字 · 30 頁

青空文庫

こころだけが江戸へ帰って、池の端の伏見屋で見た岩井半三郎の死絵を映像に、一心に凝視めていた。長いこと、じっとそうしていた。

お久美は、ほがらかに微笑んでいた。

暴風雨に追われて、おひさの離家に帰ったお久美は、いそいで、江戸へかえる旅仕度をはじめていた。

が、この、急に来た雨と風だった。いますぐ発足することは、できなかった。

「とにかく、朝まで待ちましょう。そして、今夜は眠て夢を見ないように、ずっと起きていることにしよう。」

くらい行燈だった。

南から襲ってきたあらしは、足が早かった。天を地へ叩きつけるような、すさまじいけしきになって来ていた。大粒な水滴が庇を打って、かわいた道路に、見るみる黒い部分が多くなって行った。雲の下に、低く雷がころがって白い布をふるような、いなびかりだった。もう、凹地の家には水が出たらしく、あわただしく叫びかわす人声と、提灯の灯とが、物ものしく、闇黒に交錯していた。

「崖くずれがあるかもしれぬ。あのお寺の墓地に。」

お久美は、早出の用意に脚絆など揃えながら、手を休めてそう思った。

手のつけようのない晩飯の膳が、そのままで下げる意味で、縁の障子のかげに置かれてあった。