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おじさんのはなし
おじさんの話
小山 清
線上閱讀小山 清《おじさんの話(おじさんのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 頁
「おや、おじさん、まだ帰って来ないのかね?」
とふと誰やらが云い出して、はじめておじさんの帰りのおそいことに、皆んな気がついた。それでも夕刊までには帰ってくるだろうと思っていたが、時計の針は進んでも、おじさんはなかなか帰って来なかった。どうしたのだろうと、私達も訝り心配しはじめた。こんなことは初めてであったし、ふだんおじさんは決してルーズな人ではなかったから。
「まさか、おじさん、しょっぱんしたわけじゃないだろうな。」
と私達は冗談を云った。新聞屋仲間では、無断退店することをしょっぱんすると云い、またその当人のことは「パン吉」と呼んだ。新聞屋なみに卑下した用語である。しょっぱんする際には、誰にしろ、店に対して多少の不義理をしていくわけであるから、その後めたさが自ずと語感にあらわれたわけであろう。この頃は、渡り者の配達で、しょっぱんの前科のない者は殆どいなかった。だから私達は、誰かがまえの晩に廓へ遊びに出かけて、つい朝刊の配達に帰ってくるのがおくれたような場合でも、すぐ疑ぐったものだ。けれども、おじさんはこの店に対してしょっぱんしなければならない因縁は、なにもなかった。