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おりつとこらと
お律と子等と
線上閱讀芥川 竜之介《お律と子等と(おりつとこらと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,195 字 · 51 頁
洋一は妙にてれながら、電話の受話器を耳へ当てた。するとまだ交換手が出ない内に、帳場机にいた神山が、後から彼へ声をかけた。
「洋一さん。谷村病院ですか?」
「ああ、谷村病院。」
彼は受話器を持ったなり、神山の方を振り返った。神山は彼の方を見ずに、金格子で囲った本立てへ、大きな簿記帳を戻していた。
「じゃ今向うからかかって来ましたぜ。お美津さんが奥へそう云いに行った筈です。」
「何てかかって来たの?」
「先生はただ今御出かけになったって云ってたようですが、――ただ今だね? 良さん。」
呼びかけられた店員の一人は、ちょうど踏台の上にのりながら、高い棚に積んだ商品の箱を取り下そうとしている所だった。
「ただ今じゃありませんよ。もうそちらへいらっしゃる時分だって云っていましたよ。」
「そうか。そんなら美津のやつ、そう云えば好いのに。」
洋一は電話を切ってから、もう一度茶の間へ引き返そうとした。が、ふと店の時計を見ると、不審そうにそこへ立ち止った。
「おや、この時計は二十分過ぎだ。」
「何、こりゃ十分ばかり進んでいますよ。まだ四時十分過ぎくらいなもんでしょう。」
神山は体をりながら、帯の金時計を覗いて見た。