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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《しじみ河岸(しじみがし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 頁
律之助は黙って聞いていた。弥五は沸いた湯で茶を淹れ「お口には合わないだろうが」と律之助にすすめると、自分も茶碗を持って、畳敷きの上り框へ腰を掛けた。
「さっき寺でお話をうかがいました」と弥五は云った、「それで申上げるんですが、――旦那のお気持はよくわかりますが、もうお諦めなすったほうがいいと思うんですがな」
「――どうしてだ」
「どんなに旦那が仰しゃっても、みんなは決してお力にはなりません、たとえなにか知っているにしても、それを云う者は決してありゃあしませんから」
「つまり、――」と律之助は云った、「みんな誰かを恐れているというわけか」
「いいえ、自分たちがなにを云ってもむだだ、ということをよく知っているからです」
「どうして、なにがむだなんだ」
「われわれのような、その日の食にも困っている人間は、なにを云っても世間には通用しません」と弥五は云った、「仮に旦那にしたってそうでしょう、土蔵付きの大きな家に住んで、財産があって、絹物かなんぞを着ている人の云うことと、その日稼ぎの、いつも腹をへらしている人足の云うことと、どっちを信用なさいますか、いや、お返辞はわかってます」