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そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《その木戸を通って(そのきどをとおって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 頁

青空文庫

十一月に加島家のともえが結婚した。相手は納戸奉行の長男で、渡辺幾久馬といった。彼は結婚するとまもなく、江戸詰の中小姓にあげられ、夫妻そろって城下を去った。それから初めて、田原権右衛門が正四郎とふさを自宅へ招き、自分も平松家へ訪ねて来るようになった。

「破談にした責任があるからな」と田原は苦笑しながら云った、「ともえどのが嫁ぐまでは、往来を遠慮するほうがいいと思ったのだ」

それは田原へ二人が招かれたときのことであるが、さも肩の荷をおろしたというような権右衛門のようすを見て、正四郎はいつか父の云ったことを思いだし、腑におちないので訊いてみた。

「父は貴方がふさをすすめて下すったように云っていましたが、本当ですか」

「それがどうかしたか」

「私は――」と彼はちょっとまごついた、「私は貴方が怒っていらっしゃるとばかり思っていました」

権右衛門はあいまいに笑った、「ふさのような娘をもし追い出していたら、そのときこそおれは本当に怒っただろう」

「しかし貴方はまだ、ふさを御存じなかった筈ですがね」

「まあいい、飲め」と田原は云った。

どうも納得のいかないところがあるので、帰宅してから吉塚助十郎に訊いてみた。