輕讀日語

輕鬆讀懂日語經典作品

ja-reading.com

輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。

そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《その木戸を通って(そのきどをとおって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 頁

青空文庫

と吉塚は続けた、「事実は、私が外出して戻りますと、門前にぼんやり立っておられ、ここはどなたのお屋敷かと訊かれました、私は平松正四郎さまであると答え、どなたをたずねているのかと訊き返しました、すると奥さまは暫く考えておられましたが、いま聞いた名が頭に残ったのでしょう、平松正四郎さまをたずねている、と仰しゃったのでございます」

すべての記憶を失っているとき、初めて聞いた名が深く印象に残り、その名が自分のたずねる人のものだ、というふうに思いこんだのであろう。正四郎は顔をそむけた。

「もういい、わかった」と彼は云った。

では本当にたずねる人を思いだして、そちらへいったのであろうか。彼はそう思ったが、すぐに首を振った。――あしかけ四年も夫婦でい、三歳になる子まであるのに、なにを思いだしたからといって突然、書置も残さずに出奔するということはない。そんな無情なことがふさにできる筈はない、彼は心の中で云った。

「ゆかはどこにいる」

「私の住居におられると思います」

「さがってくれ」と彼は云った。

吉塚が去ると、正四郎は立ちあがった。立ちは立ったけれども、そのまま放心したように、腕組みをして眼をつむった。