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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
線上閱讀佐藤 春夫《たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集(あじさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 頁
そうかと言って私は、気軽るに狸の話を持ち出してはいけないように感ぜられる。とうとう私は智恵を絞って、
「お父さんは昨夜夜中にどこか病家へ行った?」
こう、母にたずねて見た。
「いいえ、どこへも行かん、よ。」
母は事もなげにそう答えて御飯をたべている。「何うして」と聞いてくれないから私はそのまま何も言わない。しかし、狸の話はいずれ嘘だろうと思った。それで気が軽くなって昼からはいくらか何時ものような心持にはなった。それでも時々、狸のことがふと思い出されると苦になった。
夕方の御飯の時には、怪我も何もしていない父が私たち兄弟や母と一緒に食事をしていた。誰も狸の話は知らないらしい。又、知っている筈もない。私は狸の事を言おうかどうしようかと迷うた。私はへんに内気な子で父の前ではろくに口が利けなかった。それで狸の話はしない事にしようと考えた。と、その時に父が不意に言い出した。――「ねえ、妙なことがあるよ。私が昨夜大怪我をしたと言うのさ。いや、今日、熊の地(町の名前)へ行くと、その病家で不思議そうに私を見て、『今日はお見舞には来て下さるまい。と言っていたところだ』