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わがあいするしじんのでんき(さん)

わが愛する詩人の伝記(三)

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《わが愛する詩人の伝記(三)(わがあいするしじんのでんき(さん))》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,406 字 · 22 頁

青空文庫

我れの持たざるものは一切なり

いかんぞ窮乏を忍ばざらんや。

独り橋を渡るも

灼きつくごとく迫り

心みな非力の怒に狂はんとす。

ああ我れの持たざるものは一切なり

いかんぞ乞食の如く羞爾として

道路に落ちたるを乞ふべけんや。(後略)

前橋市にはじめて萩原朔太郎を訪ねたのは、私の二十五歳くらいの時であり今から四十何年か前の、早春の日であった。前橋の停車場に迎えに出た萩原はトルコ帽をかむり、半コートを着用に及び愛煙のタバコを口に咥えていた。第一印象は何て気障な虫酢の走しる男だろうと私は身ブルイを感じたが、反対にこの寒いのにマントも着ずに、原稿紙とタオルと石鹸をつつんだ風呂敷包一つを抱え、犬殺しのようなステッキを携えた異様な私を、これはまた何という貧乏くさい瘠犬だろうと萩原は絶望の感慨で私を迎えた。と、後に彼は私の印象記に書き加えていた。それによると萩原は詩から想像した私をあおじろい美少年のように、その初対面の日まで恋のごとく抱いていた空想だったそうである。

萩原は面白くない顔付で利根川の川原の見える、下宿にあんないしてくれ、私はこの気障な男が夕方来たときには、伊勢崎銘仙の羽織を着込んでいて、到底、洋服を着て一緒に散歩する対手でないという意味で、半コートも茶の洋服ももう着ていなかった。