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わがまち
わが町
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《わが町(わがまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 93,840 字 · 186 頁
酒屋は何十年もそこを動かなかった。
銭湯も代替りをしなかった。
薬局もかわらなかった。よぼよぼの爺さんが、いまだに何十年か前の薬剤師の免状を店に飾って、頓服を盛っているのだった。もぐさが一番よく売れるという。
八百屋の向いに八百屋があって、どちらも移転をしなかった。隣の町に公設市場が出来ても、同じことであった。
一文菓子屋の息子はもう孫が出来て、店先にぺたりと坐って、景品(あてもの)附きの一文菓子を売るしぐさも、何か名人芸めいて来た。
散髪屋の娘はもう二十八歳で、嫁に行かなかった。年中ひとつ覚えの「石童丸」の筑前琵琶を弾いていた。散髪に来る客の気を惹くためにそうしているらしく、それが一そう縁遠い娘めいた。
一銭天婦羅屋は十年路地の入口で天婦羅をあげていた。
甘酒屋の婆さんももうかれこれ十五年寺の門前で甘酒の屋台を出していた。夏でも出していた。
相場師も夜逃げをしなかった。落語家(はなしか)も家賃を六つもためて、十七年一つ路地に居着いていた。
路地は情けないくらい多く、その町にざっと七八十もあろうか。
いったいに貧乏人の町である。路地裏に住む家族の方が、表通りに住む家族の数よりも多いのだ。