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オフェリヤごろし
オフェリヤ殺し
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《オフェリヤ殺し(オフェリヤごろし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,366 字 · 58 頁
手足をダラリと臥かして、その顔には恐怖も苦痛の影もなく、陰影の深い所は、殆ど鉛色に近かった。そして、脣は緩かな弓を張りそれには無限の悲しみが湛えられていた。
右の頸筋深く、頸動脈を切断した切り創は、余程鋭利な刃物で切ったと見えて、鋭い縁をそのまま、パクリと口を開いている。そしてそこには、凝結した血が、深い溜りを作っていて、緞帳の余映で、滲み出た脂肪が金色に輝き、素馨花の冠が薄っすらと色附いている。それが、この惨状全体を、極めて華やかなものにしていたのである。
「熊城君、君は忘れやしまいね。風間九十郎の挑戦状の中に、来たれ、列柱を震い動かさん――とあったのを。それが、とうとう実現されてしまったのだよ」
検事は、風間の魔術に酔わされて、声にも眼にも節度を失っていた。
「うん、地震でもないのに、この大建築を玩具のように揺り動かすなんて、九十郎の不思議な力は底知れないと思うよ。だが、奈落とはよく云ったものさ」
熊城は屍体から顔を離して、プウッと烟を吐いた。
「この事件でも、舞台の床一重が、天国と地獄の境いじゃないか。サア法水君、奈落へ下りるとしようか」
いずれにしても惨劇が奈落に於いて行われた事は明らかなので、舞台の上は、事件とは何んの関係もないのだった。