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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《ズラかった信吉(ズラかったしんきち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 頁

青空文庫

――

一ルーブリ五十カペイキもする牛乳なんぞ、誰が買うか!

六

「どうもありがとうござんした」

やっと人垣をぬけ出た信吉は洋服の袖で顔を拭いた。

「いきなりまくしたてられて、ドマついちゃった!」

また顔を拭いた。

少しはなれて、一緒に停ってる汽車の方へ戻りながら、縁無眼鏡が、

「どこまで行くんです」

ときいた。

「モスクワへ行くつもりなんですが……」

「誰かいるのかね」

「いいや」

「働く口があるんですか」

「そうじゃねんです」

信吉は、人なつこい気になってチラリと相手の男を見た。風采は上らないが、自分より学問している人間なことが感じられた。

汽車の下まで来たとき、その男は腕時計を見た。

「まだ二分ある」

――さっきから耳につくのはどこの訛りなんだろ。信吉は何心なく、

「あんた、どっからけ?」

ときいた。

「……朝鮮です。――ずっと北の雄基の先だ……じゃ、また」

スタスタ自分の乗っている車の方へ行ってしまった。

「ヤ」

遅ればせに声を出したっぱなしで、汽車が動き出しても信吉は、ボンヤリしていた。――鮮人かい!……内地で鮮人と云えば、土方か飴売りしかないもんと思ってる。