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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《ズラかった信吉(ズラかったしんきち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 頁
それで親類じゅうの誰よりなついて手紙までよこしたんだ。――どうかいいとこみてえに思ってやがる。……
何一ついいことは知らしてない手紙でも故郷からだんだん遠くへ遠くへと行く信吉にとっては、懐しいたよりだ。信吉は鼻をほじくりながら、長いこと膝の上の雑記帳から引ぱいだ紙を眺めていた。
二
地図で見ると、日本は実に小さい国だ。小学校でつかう千八百万分の一地図で、樺太の端から台湾までたった六寸五分だ。幅はと云えば一等ひろいところで五分だ。
この上に現在ぎっしり詰って生きている九千万人の人間を彫り出せと云ったら、いかな豆彫の達人もちょっと閉口するだろう。
東は太平洋だ。いろんな冒険家がアメリカとの間を横断飛行やろうとしているがまだ成功した者は一人もない。そんなに広い太平洋だ。
西は日本海だ。狭い日本で急速に資本主義が発達した。儲けるすき間のなくなった資本家が、先ず朝鮮をしゃぶり抜いて満州や沿海州へ侵入し、ひと当てやろうとしていることは知らない者のない歴史的事実だ。
大きいところでは南満州鉄道、北樺太石油、最近借区料問題でソヴェトとの間に大ごたごたをまき起し、さも日本の大衆に直接利害のあることみたいな体裁で騒ぎたてた露領漁業組合。