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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《パノラマ島綺譚(パノラマとうきだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 頁
いつしか、あの恐しい疑いを忘れて了って、彼女は今、ただ目前の楽しさに酔っているのでもありましょうか。
ガラスのトンネルは、不思議な曲線を描いて、蛇の様にいつまでも続きました。幾百燭光の電燈に照されていても、海の底の淀んだ暗さはどうすることも出来ません。圧えつける様な、うそ寒い空気、遙か頭上に打ち寄せる浪の地響、ガラス越しの蒼暗い世界に蠢く生物共、それは全くこの世の外の景色でありました。
千代子は進むに従って、最初の盲目的な戦慄が、徐々に驚異と変じ、更らに慣れて来るに従って、次には夢の様な、幻の様な、海底の細道の魅力に、不可思議なる陶酔を感じ始めていました。
電燈の届かぬ遠くの方の魚達は、その目の玉ばかりが、夏の夜の川面を飛びかう螢の様に、縦横に、上下に、彗星の尾を引いて、あやしげな燐光を放ちながら、行違っています。それが、燈光を慕って、ガラス板に近づく時、闇と光の境を越えて、徐々に、様々の形、とりどりの色彩を、燈下に曝す異様なる光景を何に例えればよいのでしょう。巨大なる口を真正面に向けて、尾も鰭も動かさず、潜航艇の様にスーッと水を切って、霧の中のおぼろな姿が、見る見る大きくなり、やがて、活動写真の汽車の様に、こちらの顔にぶっつかる程も、間近く迫って来るのです。