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ボロやのしゅんじゅう

ボロ家の春秋

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《ボロ家の春秋(ボロやのしゅんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 頁

青空文庫

それは中山に宛てたものであった。書いている間、便箋の下では東京裁判のラジオが鳴っていた。三元がまだ碑文谷署にいるかどうかということ、またその後の状態を知らせて呉れというようなことを書いた。それから暫く考えて、三元が罪に堕ちたのも此の世の約束が脆弱になったからだと思うと、書きそえた。そう書きながら、ふと彼は自らを嘲ける気持に落ちた。

(いつもおれは実のないへなへなした言葉ばかりを、言ったり書いたりしている)

家を追い立てをくっているから、暫くでいいから同居させてほしい、と書くとき、彼はやはり微かな抵抗を感じた。中山が彼をむかえる訳がないことは、たしかな予感として彼にあった。中山をふくめた人物や事象は、平面的な模様として彼の心をへだたってはいたが、それらはまた漠然たる復讐の気配をふくんだ構図で、同時に彼に対していた。心身の変調を覚えてから、時々起きる理由のない不透明な不安も、押しつけてゆけばそのような壁につき当るようであった。彼はぼんやりした笑いを顔にふくませながら、だるい身体を起し、手紙を投函しに外に出た。

戻って来たとき、発田のおかみさんがしゃがんで境の垣根を抜いているところを、彼は見た。