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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《マクシム・ゴーリキイの伝記(マクシム・ゴーリキイのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 頁
ロシアの古い民謡を実にどっさり知っていてそれを上手に唄い、祖父のいない晩の台所での団欒がはじまると、ふだんは太った重い体がどうしてああも不思議な魅力を示すかと驚くような踊りをおどった。特にその物語は、すべての聴きてを恍惚とさせる熱と抑揚とを持っているのであった。台所の炉辺で、或は家じゅうを荒れている気違い騒ぎから逃げ込んだ屋根裏の祖母さんの小部屋の箱の上で、ゴーリキイが話して貰ったロシアの沢山の伝説、聖者物語、又祖母さんの見て来た様々な生活の物語は、窒息するような生活にはさまれているゴーリキイの心に、広い世の中への漠然とした憧れ、生活の歓び、期待を養ったのであった。
祖母さんは朝、目をさますと、先ず荒い鼻息を立てて顔を洗い、さて聖像の前に立った。猫背の背中を真直にし、頭をふりあげ、愛想よくカザンの聖母の丸い顔を眺めながら、彼女は大きく念を入れて十字を切り、熱心に囁くのであった。
「いと栄えある聖母さま、今日もあなたの恵みを与え給え。おん母さま」
地べたにつく程低くお辞儀をすると、のろくだんだんに背中をのばして、再び次第に熱心に感動的にささやいた。
「喜びの泉よ、いと浄き美女よ、花咲く林檎の樹よ……」