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ラしのふえ
ラ氏の笛
松永 延造
線上閱讀松永 延造《ラ氏の笛(ラしのふえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,706 字 · 18 頁
不思議ではないか。」
又、ラ氏は物語った――
「私の叔父に書物を広く読んだ、優れた人があった。彼れは矢張り私と同じ疾患で仆れたが、病臥の日の中で、私へ斯ういう事を教えて呉れた。
ラオチャンド、分るか。月が虧けている時、それは本統に半分を失って了ったように見える。けれど、実は何者をも失ってはいないのだ。私が不意に居なくなるとしても、それは月の部分が虧けるようなもので、実は何も変った事は起っていないのだ。」
この言葉につれて、二人は思わず頭上の天を眺めやった。私は深い困惑に落ちて、この異国人の旅愁を少しでも和らげてやりたいと願った。然し、ラ氏は最早全く感情的なものから遠ざかって、平和に微笑んだ。
更に彼れは斯う呟いた――
「私は何んな場合でも、極く自然に幸福を自分のものとした例を知らない。では、何うして私は幸福をかち得たか? 何時も不幸でもって、幸福を買ったのである。例えば、私は幼い時から、日本へ渡って来たいと憧憬れた。然し、その願いが果たされたのは、横浜で病いにかゝった叔父を看護する目的からであった。
又、私は君と大変親密にして貰って嬉しいが、そうなる為めには、私の病気が色々と機会を造ったのではないか。