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レモンのはなのさくおかへ

レモンの花の咲く丘へ

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《レモンの花の咲く丘へ(レモンのはなのさくおかへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 頁

青空文庫

美しき色ある糸の

綾を織る人の一生、

五色の色のさだめは

苧環の繰るにまかせて、

桧の梭の飛び交うひまに、

綾を織る罪や誉や。

(窓より塔をすかし見て)日は未だ暮れぬそうな。塔の頂きの影が消えぬ。(また歌う)

五色の色の機織り、

一日を十年に数え

幾日経にけん。

(機を織る手をとめて)ああ私は此処に幾年居るのだろう。月も日も春も夏も、ただ窓ごしに見るばかり、それにあの黒い塔が、いつも窓の外に立っていて、外を見る私の眼をさえぎっている、鳥が飛んでも雲が歩いても、風に小歌が響いて来ても、木の葉に時雨が降りかかっても、蝶が散る花に囁いても、私はただ窓ごしに見るばかり。それもあの黒い塔が、私の見る眼をさえぎるので、思うがままに見ることが出来ぬ。(間)あの塔の物凄さはどうだろう。唯その姿を見ただけでも、血汐が凍ってしまいそうだ。――夜でも昼でもあの塔には湿った影がついている。そのしめった影が昼は塔の頂きにあるが、夜は灰色の壁を伝って、水門の方へ下りて来る。その様子が恰度、墓場を巡る燐の火に人の魂が迷うようだ。ああ、ああ、あの塔は墓場かも知れぬ。(沈思)墓場かも知れぬ。けれども私は、まだ一度もあの中へは這入って見ぬ故、塔の中には何が居るやら、どんな秘密が籠っているやら、どんな悲しみが住んでいるやら、どんな恐怖がひそんでいるやら、私には