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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《一本の花(いっぽんのはな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 頁

青空文庫

「――本当に滅茶苦茶を致しますんですからねえ」

そして藤堂の顔に目を据えて云った。

「きっと今にどうかなっちゃうから、見ていらっしゃい」

藤堂は暫く黙っていたが、しんねり、

「こいつもヒステリーです」

と云った。

帰ろうとしていると、細君が、

「ああ白杉さん、お宅に、犬お飼いですか」

と訊いた。

「いいえ、飼おうと云ってはおりますんですけれど」

「あなた、じゃ丁度よござんすよ」

藤堂の答えも待たず、

「うちに犬の児が二匹もいて、始末に困ってるんですの。じゃ一匹お宅で飼っていただきましょう、丁度いいから、今日連れてっていただいてね」

立ちかかるのを藤堂が止めた。

「そんなに急に云ったって――御迷惑だよ」

「――駄目でしょうか……」

細君は、高い椅子の上で上体を捻るようにし、不機嫌に朝子を見た。

春になると、庭へ、ヒアシンスや馨水仙が不断に咲き満ちると云うことであった。それ等の花に囲まれ、益々病的であろう夫婦の生活を想像すると、朝子は頽廃的な絵画を眺めるような気分を感じた。彼等のところにも、夫婦生活の惰力が強く支配している。それがどんな沼か、朝子は、彼女の短い亡夫との夫婦生活で知っている。