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さんじゅっさい

三十歳

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《三十歳(さんじゅっさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 頁

青空文庫

このホテルは戦災で焼けたということであるが、明治時代の古い木造の洋風三階建で、その上に三畳ぐらいの時計塔のようなものが頭をだしていた。私が借りて住んだのは、この時計塔であった。特別の細い階段を上るのだ。風が吹くと今にももぎれて落ちそうに揺れるから、風のおさまるまで友人の家へ避難するというような塔であった。

私には母と一しょの日本の古い家という陰惨な生活がたえられなかったのであるが、も一つの大きな理由は、別れた女がくるかも知れぬ。その女に逢ってしまうと、私はまたズルズルと古いクサレ縁へひきこまれるに相違ないという予感があった。

なぜなら、私は矢田津世子に再会した一週ほどの後には、二人のツナガリはその激しい愛情を打ち開けあったというだけで、それ以上どうすることもできないらしいということを感じはじめていたからであった。

矢田津世子は、別れた女の人に悪いじゃないの、と言うのであった。そんな義理人情、私はさりげなく返答をにごしているが、肚では意地悪くあの人の言葉の裏の何ものかを見すくめて、軽蔑しきっている。

又Oさんに悪いから。Oさんは自殺するから、と言った。