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みうらうえもんのさいご
三浦右衛門の最後
菊池 寛
線上閱讀菊池 寛《三浦右衛門の最後(みうらうえもんのさいご)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,999 字 · 14 頁
駿河の府中から遠からぬ田舎である。天正の末年で酷い盛夏の一日であった。もう十日も前から同じような日ばかりが続いていた。その炎天の下を、ここから四、五町ばかり彼方にある街道を朝から、織田勢が幾人も幾人も続いて通る。みんな盛んに汗をかいている。その汗にほこりが付いて黒い顔がさらに黒ずんで見える。しかしこう物騒な世の中ではあるが、田の中にいて雑草を抜いたり、水車を踏んだりしている百姓は割合に落ち着いている。一つは見渡す限り略奪にあいそうな農作物は一つもないからである。どんなに織田勢が意地が汚くっても、まだ花が咲いているばかりの稲を刈り取りはしまいという安心があるのと、二つには戦さわぎに馴れきって、英国の商人たちのように business as usual と悟りすましていたのであった。
府中の館が陥ちたという噂が昼頃伝わって来た。日中であるからはっきりは聞えなかったが、戦のさけびが聞えたり、火事の煙がほのかに見えた。お館が亡びるのだと百姓は思った。自分の家の上に覆い被さっていた大木の倒れたように明るくなったような気持もするし、なんだか残り惜しいような気持もした。