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みうらろうじんむかしばなし
三浦老人昔話
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《三浦老人昔話(みうらろうじんむかしばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,637 字 · 224 頁
なにぶんにも兄よりは大柄で力も強いのですから、いくら焦っても仕方がない。阿部さんは無暗に藻がき狂うばかりで、おめ/\と弟に押さえられていました。
「放せ。放さないか。」と、阿部さんは気ちがいのように怒鳴りつゞけている。その耳の端では「置いてけえ。」という声がきこえています。
「これ、お幾。兄さんは蝮の毒で逆上したらしい。水を持って来て飲ませろ。」と、新五郎も堪りかねて云いました。
「はい、はい。」
お幾は阿部さんの手から落ちた茶碗を拾おうとして、蚊帳のなかへからだを半分くゞらせる途端に、その髪の毛が蚊帳に触って、何かぱらりと畳に落ちたものがありました。それは彼の黄楊の櫛でした。
「お話は先ずこゝ迄です。」と、三浦老人は一息ついた。「その櫛が落ちると、お幾はもとの顔にみえたそうです。それで、だん/\に阿部さんの気も落ちつく。例の置いてけえも聞えなくなる。先ず何事もなしに済んだということです。お幾は初めに櫛を貰って、一旦は自分の針箱の上にのせて置いたのですが、蝮の療治がすんで、自分の部屋へ戻って来て、その櫛を手に取って再び眺めているところを、急に主人に呼ばれたので、あわてゝその櫛を自分の頭にさして、主人の枕もとへ出て行ったのだそうです。