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しがつばか
世相・競馬
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《世相・競馬(しがつばか)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,112 字 · 39 頁
パン屋の陳列ガラスの中には五つ六つのパンがさびしく転っていた。「電気マッサージ」と書いた看板の上に赤い軒燈があった。ひらいた窓格子から貧しい内部が覗けるような薄汚い家が並び、小屋根には小さな植木鉢の台がつくってあったりして、なにか安心のできる風情が感じられた。魚の焼く匂いが薄暗い台所から漂うて来たり、突然水道の音が聴えたりした。佐伯は思い掛けない郷愁をそそられ、毎日この道を通ろうと心に決めた。三丁行くと道は突き当った。左手は原っぱで人夫が二三人集って塵埃の山を焼いていた。咳をしながら右へ折れて三間ばかし行くといきなりアスファルトの道が横に展けていてバスの停留所があった。佐伯の勘は当っていた。そこから街へ通うバスが出るのだった。停留所のうしろは柔術指南所だった。柔道着を着た二人の男がしきりに投げ合いをしていた。黒い帯の小柄な男が白い帯のひょろ長い男を何度も投げ飛ばした。そのたびドスンドスンと音がした。あんな身体になれば良いと佐伯は羨ましく眺め、心に灯をともしながらバスが迂回するのを待った。
帰りもバスだった。柔術指南所はもう寝しずまっていた。原っぱには誰もいなかった。