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ふたつのいえをつなぐかいそう
二つの家を繋ぐ回想
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《二つの家を繋ぐ回想(ふたつのいえをつなぐかいそう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,480 字 · 37 頁
愛情から来る独断で、自分は寧ろ愛を覚えた。深く逆らう気も起らない。今行く方が総ていい、と云う直覚に動かされ、半ば祖母に打ち負けた形で、自分は林町へ、薔薇新の傍から行った。
母は台処に、女中と、安積から来た柿のことを話して居られた。自分が今朝行くことを知って居られたのだろうか、知らなかったのだろうか。
玄関の敷居を跨いだ時から心に湧いた素直さで、自分は何気なく配膳室と台所との境の硝子戸を押しあけた。
「今日は!」
「まあ、お嬢様!」
まつ(女中)が、懐しさの満ち溢れた声を出す。
彼方を向いて居た母上は、素早く此方を振向いた。そして、自分のやや寂しく微笑んだ顔を認めると
「おや、まあ……」
と云うなり、何とも云えない表情をされた。胸の迫った面持である。可愛ゆさ、安心、悦びが、一時にぐっとこみあげ、涙となろうとするのを、危うくも止めた表情である。
自分はそれを見、正視するに耐えなかった。眼を逸し、さりげなく
「安積から来た柿?」
と、まつに話しかけた。
「そうでございます。俵に一俵も来ましたの」
母は、黙って食堂に戻って行かれた。暫くして、自分も行く。――
祖母が、本能で思い付いた口実で、勿論彼女の贈物のことは、相談する迄のことはなかった。