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しつらくえんさつじんじけん
二十世紀鉄仮面
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《二十世紀鉄仮面(しつらくえんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,489 字 · 77 頁
また、その廊下は、廻り縁になる角から幾つもの室の間を貫通して、本堂の僧侶出入口で行詰まっていた。つまりどの室からも直接廊下伝いに来られるのだが、昨日から今日にかけて非常に気温が低いので、障子の間は真冬のように隙がなかった。
二人の私服に挾まれて、画室衣の青年が黙然と莨を喫らしている。――それが厨川朔郎だった。二十四、五で美術学生らしい頭髪をし、整った貴族的な容貌の青年だが、肩から下には、炭坑夫とも見擬うような、隆々たる肉線が現われていた。
彼は法水を見ると、莞爾っと微笑んで、
「ヤア、漸と助かりましたよ。実は、法水さんの御出馬を千秋の思いで待ち焦がれていた所なんです。全く熊城さんの無茶な推定にはやり切れません。鏨が一本発見された位の事や、僕の室の窓外にある裏木戸から薬師堂の前へ直接出られる位の事で、僕を犯人に擬すると云う始末ですからね。それに、鏨と云われて探してみると、もう一本あったのが何時の間にか紛失しているのですが、それをどんなに述べ立てても、僕を少しも信用してくれないのですからね。では、昨夜の行動を申上げましょうか」と云って、――四時に学校から戻って、それから室でゴーガンの伝記を読んでいて、七時に夕食に呼ばれ、九時頃蒟蒻閻魔の縁日に出掛けて十時過ぎに帰宅したと云う旨を、要領よく述べ立てた。