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ちゅうとう
偸盗
線上閱讀芥川 竜之介《偸盗(ちゅうとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,934 字 · 97 頁
「そのうちに、わしはおばばに情人がある事を知ったがな。」
「そんなら、おぬしはきらわれたのじゃないか。」
「情人があったとて、わしのきらわれたという、証拠にはならぬ。話の腰を折るなら、もうやめじゃ。」
猪熊の爺は、真顔になって、こう言ったが、すぐまた、ひざをすすめて、太郎のほうへにじり寄りながら、つばをのみのみ、話しだした。
「そのうちに、おばばがその情人の子をはらんだて。が、これはなんでもない。ただ、驚いたのは、その子を生むと、まもなく、おばばの行き方が、わからなくなって、しもうた事じゃ。人に聞けば、疫病で死んだの、筑紫へ下ったのと言いおるわ。あとで聞けば、なんの、奈良坂のしるべのもとへ、一時身を寄せておったげじゃ。が、わしは、それからにわかに、この世が味気なくなってしもうた。されば、酒も飲む、賭博も打つ。ついには、人に誘われて、まんまと強盗にさえ身をおとしたがな。綾を盗めば綾につけ、錦を盗めば、錦につけ、思い出すのは、ただ、おばばの事じゃ。それから十年たち、十五年たって、やっとまたおばばに、めぐり会ってみれば――」
今では全く、太郎と一つ畳にすわりこんだ老人は、ここまで話すと、次第に感情がたかぶって来たせいか、しばらくはただ、涙に頬をぬらしながら、口ばかり動かして、黙っている。