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ちゅうとう

偸盗

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《偸盗(ちゅうとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,934 字 · 97 頁

青空文庫

彼は、時と所とを分かたない、昏迷の底に、その醜い一生を、正確に、しかも理性を超越したある順序で、まざまざと再び、生活した。

「やい、おばば、おばばはどうした。おばば。」

彼は、暗から生まれて、暗へ消えてゆく恐ろしい幻に脅かされて、身をもだえながら、こううなった。すると、かたわらから額の傷を汗衫の袖で包んだ、交野の平六が顔を出して、

「おばばか。おばばはもう十万億土へ行ってしもうた。おおかた蓮の上でな、おぬしの来るのを、待ち焦がれている事じゃろう。」

言いすてて、自分の冗談を、自分でからからと笑いながら、向こうのすみに、真木島の十郎の腿のけがの手当をしている、沙金のほうをふり返って、声をかけた。

「お頭、おじじはちとむずかしいようじゃ。苦しめるだけ、殺生じゃて。わしがとどめを刺してやろうかと思うがな。」

沙金は、あでやかな声で、笑った。

「冗談じゃないよ。どうせ死ぬものなら、自然に死なしておやりな。」

「なるほどな、それもそうじゃ。」

猪熊の爺は、この問答を聞くと、ある予期と恐怖とに襲われて、からだじゅうが一時に凍るような心もちがした。そうして、また大きな声でうなった。