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ひかりはかげを

光は影を

岸田 国士

線上閱讀岸田 国士《光は影を(ひかりはかげを)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 頁

青空文庫

二

「雲井秋生先生は、もう女弟子はいらんのだな」

「あのひと、女でも男でも、弟子と名のつくようなもんはいやなんですつて……。その代り、自分も先生がいないつていうのが得意なの」

「あの、雲井先生をご存じでいらつしやいますの?」

と、百瀬しのぶは、眼を輝やかした。

「えゝ、先から存じあげていますの。まだ、無名でいらしつた頃から……」

多津は、年嵩らしく、鷹揚にうなずきながら、兄の方へ、いたずらつ子のような眼くばせをした。

「多津、さつき話に出たんだが、百瀬さんの最も尊敬する作家の一人が、その雲井先生なんだそうだよ。これは、なんとか、いずれは、せにやなるまいね」

「あら、ほんと? じや、いつかご紹介するわね」

多津が笑顔で快く引きうけると、百瀬しのぶは、もう、頬を赤くして、

「どうぞ、ぜひ……。でも、こわいわ」

と、からだをくねらせた。

二

百瀬しのぶは、その日の午後の汽車で、一旦、松本へ帰ると言つた。叔父の秀人から、そのつもりでと言われて来ているのである。別に強いて止める理由もないので、京野等志は、出勤までの三十分ほどを、まだ雑談にすごすつもりでいると、二人きりになつたのを見計らうように、彼女は、不意に、こんなことを言いだした――