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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

線上閱讀倉田 百三《光り合ういのち(ひかりあういのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 頁

青空文庫

2

私たちのすぐ側には桜の老木が一杯花をつけていた。風に花びらは散った。そして間を置いては梵鐘が殷々と沈みとどろいて、生のうつり易いことを、この瞬刻のいのちを撞き出しているかのようであった。

私は、彼女の横顔をぬすみ見ていた。彼女は、唇を少し開いて、身を乗り出すようにして、稚児に見とれているようであった。頬や、耳たぼのあたりの肉は薄く、透きとおるようで、冷たそうに見えた。

行列が過ぎても、彼女はものを言わなかった。が立ち際に私を見てニッコリと首を傾けた。私もほほえみを返した。

「鶴子や、もう行きましょう」と母親が言った。

伯母と挨拶を交わすと、母と娘とは長い廊下を歩いて行った。彼女の藤倉が私の目に残った。

2

それからというもの鶴子は私の年少の夢の小さな守護神になった。むらさき色の着物をきて、藤倉の裏をひるがえして、寺の廊下を遠く歩いて去った少女の姿は、私の胸の奥に焚きもののような香を残し、私は彼女を思い見るだけで、もううっとりとなるのであった。そうした現実を離れてものをイメージ化する傾向は私には子供のころから強かったようだ。十位のころに小学校で放課後に鬼ごっこして遊んでいたとき、疲れて草生に仰向きにたおれると、二階の教室からオルガンの音が聞こえて来た。