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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

「はい」と佐介はちょっと考え、「初夜には一刻(二時間)もございましょうか」

「まだそんなに早いのか」

「宵の口でございます」

「ああ夜が早く明ければよい……俺は夜が大嫌いだ。……俺には夜が恐ろしいのだ」

ザワザワと吹く春風が雨戸を通して聞こえて来た。と、コトンと音がした。

「あれは何んだ? あの音は?」

「さあ何んでござろうの」剣術使いの佐伯聞太は、大刀を膝の辺へ引き付けながら、「鉢伏山から狐めが春の月夜に浮かされてやって来たのでもござろうか」

「ナニ狐?」と紋兵衛は、恐怖の瞳を踴らせたが、「追ってくだされ! 俺は狐が大嫌いだ!」

「よろしゅうござる」

と大儀そうに、聞太はスックリ立ち上がったが襖を開けると隣室へ行った。障子を開ける音がする。雨戸をひらく音もする。

「アッハハハハ」

と笑い声がすると、雨戸や障子が閉てられた。

聞太は部屋へはいって来たが、

「狐ではなくて犬でござった。黒めが尾を振っていましたわい」

「犬でござったのかな。それで安心」紋兵衛はホッと溜息をした。

暫時部屋は静かである。

と、紋兵衛は悲しそうな声で、

「ああ私は眠りたい。眠って苦痛を忘れたい……北山先生、薬くだされ!」