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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

さて裏縁へ来て見ると、見覚えのある鏡家の若党山岸佐平がかしこまっていた。

「佐平ではないか。ご苦労ご苦労」

「はっ」と云うと進み寄り、懐中から書面を取り出したが、

「私主人葉之助より、密々先生に差し上げるようにと、預かり参りましたこの書面、どうぞご覧くださいますよう」

「おおそうか、拝見しよう」

「次に」と云いながら山岸佐平は、また懐中へ手をやると小さい包みを取り出したが、「これも主人より預かりましたもの、共々ご披見くださいますよう」

「そうであったか、ご苦労ご苦労、疲労れたであろう、休息するよう」

云いすてて置いて北山は、自分の部屋へつとはいった。

書面をひらいて読み下すと、次のような意味のことが書いてあった。

「前略、とり急ぎしたため申し候、さて今回金一郎様、不慮のことにてご他界遊ばされ、君臣一同愁嘆至極、なんと申してよろしきや、適当の言葉もござなく候、しかるに当夜私事、偶然のこととは云いながら、二、三怪しき事件に逢い、疑惑容易に解き難きについては、先生のご意見承わりたく、左に列記仕り候。

当日、私非番のため、家を出でて市中を彷徨い、深夜に至りて帰路につき、愛宕下まで参りしおりから、蘭医大槻玄卿邸の、裏門にあたって一挺の駕籠、忍ぶが如くに下ろされおり、何気なく見れば一人の老人まさにその駕籠に乗らんとす。