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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

玄卿お礼を申しますじゃ」それでも一通りの礼は云った。

「拙者は鏡葉之助、内藤駿河守の家臣でござるが。ナニ助けたと申し条、ただちょっと通りかかったまで、そのご挨拶では痛み入る」葉之助も傲然と云った。「こんな坊主に負けるものか!」こういう腹があったからである。

「ほほう、内藤家の鏡氏、いやそれはご名門だ。お噂は兼々存じております。実は愚老は内藤様ご舎弟、森帯刀様へはお出入り致し、ご恩顧を蒙っておりますもの、これはこれはさようでござったか」

玄卿も相手が葉之助と聞いて、にわかに慇懃な態度となった。

その時小間使いが現われたが、それは別の小間使いであった。片手に錫製の湯差しを持ちもう一つの手に盆を持っていたが、その盆の上には二つの茶碗と、小さな茶漉しとが置いてあった。そうして砂糖壺とが置いてあった。

「うん、よろしい、そこへ置け」こう云って玄卿は頤をしゃくった。

「いやナニ鏡葉之助殿、これは南蛮茶と申しましてな、日本ではめったに得られないもの、たいして美味でもござらぬが、珍らしいのが取柄でござる」

こう云いながら玄卿は、湯差しを手ずから取り上げると、茶漉しの上から茶碗の中へ深紅の液を注ぎ込んだ。