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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

焼き打ち! 焼き打ち! 焼き打ちなのであった!

邪教徒が塔へ火を掛けたのだ。

遁がれることは出来なかった。

「残念!」と葉之助は呻くように云った。

窓から外を覗いて見た。カッと外は赤かった。火は四辺を照らしていた。今まで夜闇に閉ざされていた真っ黒の大地が明るんで見えた。

無数の人間の姿が見えた。

塔の上を振り仰ぎ、指を差して喚いていた。踊り廻っている人姿もあった。

「残念!」と葉之助はまた呻いた。

煙りがドンドン上って来た。物の仆れる音がした。メリメリという音がした。火の粉がパラパラと降って来た。

塔は土台から焼けているのであった。

間もなく塔は仆れるだろう。

そうなったら万事休であった。

と、その時、狼達が、不思議な所作をやり出した。

次々に窓際へ飛んで行き、窓から外へ鼻面を出し、「ウオー、ウオー、ウオー、ウオー」と長く引っ張って吠え出した。

これぞ狼の友呼び声で、深山幽谷で聞く時は、身の毛のよだつ声であった。

「これは不思議」と葉之助は、窓から下を見下ろした。

奇怪な事が行われた。いや、それが当然なのかもしれない。

友呼びの声に誘われたように、あっちからもこっちからも狼が――いや、熊も土佐犬も、そうして豹までも走り出して来た。