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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

葉之助は直走った。

火消しの群が走って来た。町々の人達が駈け付けて来た。

ワーッ、ワーッと鬨の声を上げた。

猛獣の群が走るからであった。

返り血を浴びた葉之助が、血刀を提げて走るからであった。

獣の群は狂奔した。

おりから空は嵐であった。火が隣家へ燃え移った。

二一

教主の一団が走って行った。その後を猛獣が追っかけた。そうしてその後から葉之助が走った。

深夜の江戸は湧き立った。邪教の道場は燃え落ちた。火が八方へ燃え移った。町火消し、弥次馬、役人達が、四方八方から駈けつけて来た。

悲鳴、叫喚、怒号、呪詛。……ここ芝の一帯は、修羅の巷と一変した。

その同じ夜のことであった。

遠く離れた浅草は、立ち騒ぐ人も少かった。しかしもちろん人々は、二階や屋根へ駈け上がり、遥かに見える芝の火事を、不安そうに噂した。

「芝と浅草では離れ過ぎていらあ。対岸の火事っていう奴さ。江戸中丸焼けにならねえ限りは、まず安泰というものさ。風邪でも引いちゃあ詰まらねえ、戸締りでもして寝るがいい」

こんなことを云って引っ込む者もあった。神経質の連中ばかりが、いつまでも芝の方を眺めていた。