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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

観音堂の裏手の丘から、囁く声が聞こえて来た。

「おい、芝が火事だそうだ」

「江戸中みんな焼けるがいい」

「そうして浮世の人間どもが、一人残らず焼け死ぬがいい」

「そうして俺ら窩人ばかりが、この浮世に生き残るといい」

夜の闇が四辺を領していた。窩人達の姿は朦朧としていた。立っている者、坐っている者、歩いている者、木へ上っている者、ただ黒々と影のように見えた。

遥か彼方の境内の外れに、菰張りの掛け小屋が立っていた。興行物の掛け小屋であった。窩人達の出演ている掛け小屋であった。その掛け小屋の入り口の辺に、豆のような灯火がポッツリと浮かんだ。それが走るように近寄って来た。火の玉が闇を縫うようであった。窩人達の側まで来た。それは龕灯の火であった。龕灯の持ち主は老人であった。窩人の長の杉右衛門で、杉右衛門の背後に岩太郎がいた。

「時は来た!」と杉右衛門が云った。「水狐族めと戦う時が!」

窩人達は一斉に立ち上がり、杉右衛門の周囲を取り巻いた。「おい岩太郎話してやれ」杉右衛門が岩太郎にこう云った。

つと岩太郎は前へ出た。

「みんな聞きな、こういう訳だ。火事だと聞いて見に行った。