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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

以前訪ねて来た時と、何んの変わったこともない。窩人達の住居には人気なく、宗介天狗の社殿には裸体の木像が立っていた。

まじまじと照る陽の光、こうこうと鳴く狐の声、小鳥のさえずり、風の音、深山の呼吸が身に迫った。

しかし一人の窩人達も、そこには住んでいなかった。

葉之助は拝殿へ腰をかけ、四辺の風物へ眼をやった。

と、その時聞き覚えのある、男の声が聞こえて来た。

「猪太郎、猪太郎、よく参った」

拝殿の奥の木像の蔭から、一人の人物が現われた。白衣長髪の白法師であった。

「おおあなたは白法師様」葉之助は立って一揖した。

「大概来るだろうと思っていたよ」

葉之助と並んで白法師は、拝殿の縁へ腰をかけた。

「どうだ葉之助、昔の素姓が、ようやくお前にも解ったろう」

「はい、ようやくわかりました。……母は窩人で山吹と云い、父は里の商人で、多四郎と云うことでございます」

「だが多四郎の後身が、大鳥井紋兵衛だとは知るまいな」

「えっ」と葉之助は眼を瞠った。「あの紋兵衛が私の父で?」

「そうだ」と白法師は頷いた。「詳しく事情を話してやろう」

そこで白法師は話し出した。

多四郎が山吹を瞞したこと、山吹が猪太郎を産んだこと、多四郎に怨みを返そうと、山吹が猪太郎の二の腕へ、二十枚の歯形を付けたこと、多四郎の真の目的は、宗介天狗の木像の、黄金の甲冑を