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はちがつみっかのゆめ
八月三日の夢
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《八月三日の夢(はちがつみっかのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,827 字 · 12 頁
それは多分シベリアの荒野であろう。雪の時期ではないように自分には思われる。それは痩せた土地である。背の低い草が一面に生えていて、一望千里の平らな原野である。光は弱く、空も草原も鼠色の一色に塗り潰された世界である。その中を、四角な卓が、四脚にぶかぶかの長靴をはいて、代り代りに四つの脚をもち上げて、コトリコトリと歩いて行くのである。
こういう桁のはずれた物凄じい夢をみることの出来る人は、極めて数が少ないであろう。考えてみれば、蛸壺の句にあるような先験的の光芒を帯びた夢や、卓が一人で歩いて行くような恐ろしい夢は見ない方が仕合わせなのかもしれない。そういう夢をみた人は、随分淋しかったことであろう。一寸聞くと物珍しいようであるが、少し分析をすれば大部分説明のつくような理窟っぽい夢を時たまみるくらいで、あとは十年一日のような講義でもしながら、安穏に暮して行く程度が一番仕合わせなことなのであろう。
(昭和二十一年二月)