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こうえんのはなとどくが

公園の花と毒蛾

小川 未明

線上閱讀小川 未明《公園の花と毒蛾(こうえんのはなとどくが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 18,574 字 · 38 頁

青空文庫

「ああ、わたしも、もう先が長くあるまい。」と、花は、自らも考えました。そして、昼間も、うつらうつらとした気持ちで、居眠りをつづけているようになりました。

周囲の常磐木の葉に、強く照りつけた太陽の光も、このしぼみかかった、哀れな花の上には頼りなげに照らしたのです。ちょうど、この花に映った太陽の光は、燐の炎のように青白くさえ見られました。

だれかつぶやいている声がしたので、ふと花は、目をさましますと、もう日は暮れていました。そばにあったベンチに腰をかけている人間は、たしかに、せんだって、黒い百合の花を探していた男であります。

「なぜだか、あの笛の音を聞くと、私は、お母さんと、あの山奥の温泉場へいったときのことが目にうかんでくる。あの時分は、お母さんは達者で、自分は、まだ子供だった。未開な温泉宿では、夜は谷川の音が聞こえて静かだった。行燈の下で、毛ずねを出して、男どもが、あぐらを組んで、下を向いて将棋をさしていた。」

男は、こう独り言をしていました。

もう、空は暗かったので、花には、男の顔がわからなかった。ただその声に聞き覚えがあっただけです。公園の鉄さくの外を按摩の吹いて通る笛の音が、細く、きれぎれに聞こえてきました。