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ほうがんさぶろうのしょうたい
判官三郎の正体
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《判官三郎の正体(ほうがんさぶろうのしょうたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,587 字 · 25 頁
素晴らしい茶碗に、銀の小匙を添えて、卓の上へ順々に並べると、得ならぬ香気が客間をこめて、午後三時らしい心持にします。
「このコーヒーは自慢で、南洋から取寄せたのを、念入りに家でひかしたんだが……」
唐船男爵は、世間並の貴族らしく、手数をかけた飲物に軽い誇を感じながら、フト匙を取りましたが、
「フム……」
茶碗の中を眺めてうなって居ります。
「マア」
英子はクルリと振り返って、扉を開けようとする女中を呼止めました。
「鶴や、一寸お待ち、クリームをコーヒーへ入れて持って来る人はありませんよ。何んというわからない娘でしょう。もう一度入れ直してお出、コーヒーとクリームは別々に持って来るんですよ」
苛辣な言葉に、若い女中はハッと立ちすくみました。小作りの可愛らしい、けれども、山から掘り出した新しい芋か、木から取ったばかりの新らしい果物といった感じのする、如何にも野趣を帯びた娘です。
「そのコーヒーは下げて行って、捨てるなり、どうするなり、それから菓子を持って来るのですよ……アア後をしめて」
すっかり面喰って、涙さえ浮べた若い女中は、アタフ夕引下って、片手で扉をしめる拍子に、持って居たコーヒー道具の盆は、ツルリと手の上を滑って、廊下の板敷の上へ、アッと思う間もなく、微塵にこわれてしまいました。