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わかれたるつまにおくるてがみ
別れたる妻に送る手紙
近松 秋江
線上閱讀近松 秋江《別れたる妻に送る手紙(わかれたるつまにおくるてがみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 51,985 字 · 103 頁
老母に取っては、それほど逆さまなことはない。
けれども、私の腹では、仮令お前はいなくっても、此家に斯うしていれば、まだ何処か縁が繋がっているようにも思われる。出て了えば、此度こそ最早それきりの縁だ。それゆえイザとなっては、思い切って出ることも出来ない。そうしていて、たゞ一寸逃れにお宮の処に行っていたかった。
四度目であったか――火影の暗い座敷に、独り机によっていたら、引入れられるように自分のこと、お前のこと、またお宮のことが思われて、堪えられなくなった。お宮には、銭さえあれば直ぐにも逢える。逢っている間は他の事は何も彼も忘れている。私は何うしようかと思って、立上った。立上って考えていると、もうそのまま坐るのも怠儀になる。私は少し遅れてから出掛けた。
桜木に行くと、女中が例の通り愛想よく出迎えたが、上ると、気の毒そうな顔をして、「先刻、沢村から、電話でねえ。あなたがいらっしゃるという電話でしたけれど、他の者の知らない間に主婦さんが、もう一昨日から断られないお客様にお約束を受けていて、つい今、お酉さまに連れられて行ったから、今晩は遅くなりましょうッて。