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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《剣侠(けんきょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 頁

青空文庫

木剣試合

1

文政×年の初夏のことであった。

杉浪之助は宿を出て、両国をさして歩いて行った。

本郷の台まで来たときである。榊原式部少輔様のお屋敷があり、お長屋が軒を並べていた。

と、

「エーイ」

「イヤー」

という、鋭い掛声が聞こえてきた。

(はてな?)

と、浪之助は足を止めた。

(凄いような掛声だが?)

で、四辺を見廻して見た。

掛声はお長屋の一軒の、塀の内側から来たようであった。

幸い節穴があったので、浪之助は覗いて見た。

六十歳前後の老武士と、三十五六歳の壮年武士とが、植込の開けた芝生の上に下り立ち、互いに木剣を構えていた。

(こりゃアいけない)

と浪之助は思った。

(まるでこりゃア段違いだ)

老武士の構えも立派ではあったが、しかし要するに尋常で、構えから見てその伎倆も、せいぜいのところ免許ぐらい、しかるに一方壮年武士の方の伎倆は、どっちかというと武道不鍛練の、浪之助のようなものの眼から見ても、恐ろしいように思われる程に、思い切って勝れているのであった。

それに浪之助には何となく、この二人の試合なるものが、単なる業の比較ではなく、打物こそ木剣を用いておれ、恨みを含んだ真剣の決闘、そんなように思われてならなかった。