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ちよがみのはる
千代紙の春
小川 未明
線上閱讀小川 未明《千代紙の春(ちよがみのはる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。
N3 · 進階 · 新字新假名 · 4,985 字 · 11 頁
」といってゆくものもありました。
そのはずであります。こいは、幾年か大きな池に、またあるときは河の中にすんでいたのです。こいは、河の水音を聞くにつけて、あの早瀬の淵をなつかしく思いました。また、木々の影に映る、鏡のような青々とした、池の故郷を恋しく思いました。しかし、盤台の中に捕らえられていては、もはや、どうすることもできなかったのです。そのうえに、もう捕らえられてから幾日もたって、あちらこちらと持ち運ばれています間に、すっかり体が弱ってしまって、まったく、昔のような元気がなかったのであります。
大きなこいは、自分の子供のことを思いました。また友だちのことを思いました。そして、どうかして、もう一度自分の子供や、友だちにめぐりあいたいと思いました。
「さあ、こいを買っていってください。もう大きいのが一ぴきになりました。うんとまけておきますから、買っていってください。」
おじいさんは、その前を通る人たちに向かって、声をからしていっていました。晩方の道を急ぐ人たちは、ちょっと見たばかりで、
「このこいは値もいいにちがいない。」と、心の中で思って、さっさといってしまうものばかりでした。