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はんしちとりものちょう
半七捕物帳
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《半七捕物帳(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,208 字 · 30 頁
事件はいよいよこぐらかって来たらしいので、半七も息をのみ込んで耳を澄ましていたが、話はよほどこみいった相談らしく、女の声はいよいよひそめいて、眼と鼻のあいだにいる半七の耳にも其の秘密を洩らさなかった。じれったいのを我慢して、ただその成り行きを窺っていると、二人はやがて相談を決めたらしく、勘定を払ってここを出た。
二人をやり過ごして、半七も起った。かれは蕎麦の代を払いながら女に訊いた。
「おかみさん。今出て行った女は辰伊勢の寮のお時さんというんだろう」
「左様でございます」
「連れの男は誰だえ」
「あれは寅さんという人でございます」
「寅さん」と、半七の眼は光った。「寅松というんじゃねえか。辻占売りのおきん坊の兄貴の……え、そうかえ」
「よく御存じでございますね」
半七は急に面白くなって来た。かれは好い加減に挨拶して表へ出ると、一本路をならんでゆく二人のうしろ影が、消え残っている雪明かりに薄黒く見えた。半七は足もとに気をつけながら、大根卸しのように泥濘っている雪解け路を辿ってゆくと、二人の影は辰伊勢の寮の前で止まった。ここでも又何かささやいているようであったが、二つの影はやがて離れて、女は門のなかへ消えた。