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なんぼくのとうかいどうよつやかいだん

南北の東海道四谷怪談

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《南北の東海道四谷怪談(なんぼくのとうかいどうよつやかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,555 字 · 34 頁

青空文庫

お袖はすぐ起って出て来た。

「なに、おばさん」

「お客さんだよ」

お色はお袖を他の室へ伴れて往った。

「おとなしいお客さんだから、大事にしておやりよ」

お色は其のまま往ってしまった。お袖はちょっと考えていたが、思いきって障子を開けて入った。

「お休みになりまして」

客がもそりと体を動かした。

「一人で寝るくらいなら、こんな処へ来るものか、此方へよんなよ」

お袖は寄らなかった。

「お願いがございます」

「なんだ」

「わたしの家は、もと武家でございましたが、容子あって父が浪人いたしまして」

お袖は真実と嘘をごっちゃにして、客の同情に訴えて、関係しないで金をもらっていた。

「そう聞けば、気のどくだが、親のために花魁になる者もある。それとも許婚でもあるのか」

「いえ、そう云うわけでも」

「そんなら何もいいじゃねえか」

客の手がお袖に来た。

「あれ」

お袖は思わず飛びのいた。其のはずみに行燈にかけてあった風呂敷がぱらりと落ちた。同時に二人が声をたてた。

「やあ、そちは女房」

「おまえは、与茂七さん」

客はお袖の許婚の佐藤与茂七であった。与茂七は主家が断絶して家中の者がちりぢりになった時、それに交って姿をかくしているところであった。