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よばれしおとめ
呼ばれし乙女
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《呼ばれし乙女(よばれしおとめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,165 字 · 11 頁
行く手の峰を越して見え出した双子山は絹のような雲が纏いつき、しばらくしてまたきれいに解け去り萌黄色の山肌が青空からくっきり刻み出されている。谷底に横わる尾根の、翠滴る大竹籔に老鶯が鳴いている。
「あすこに白く細くちらりと見えるだろ。あれが躄勝五郎の物語で有名な初花の滝さ」
少しわき道をして慶四郎は、千歳に滝を見せたりした。
またごろ太石の街道が続く。陽はまぶしいほど山地に反射して、道端に咲くいちはつの花が鋭い白星のように見える。千歳にうつらうつら襲って来る甘い倦怠――
千歳はいつか慶四郎の肩に頭を凭せて歩いている。
十年前、千歳が七八つの頃、慶四郎が父の内弟子に来てから、最初のうちは慶四郎は千歳の子守役、千歳が成長するにつれ縁日ゆきの護衛、口喧嘩の好敵手、時には兄妹のような気持にさえ、極めて無邪気な間柄であった。
だが父が、姉の仲子の養子に慶四郎を定めようとした時、すでに少女から娘に移っていた千歳は、何故か新らしく湧いた妙な味気なさを自分で不思議に思った。その縁談は、慶四郎の煮え切らない態度で有耶無耶になりそのまま今度の事件になってしまった。それゆえ、その時の味気なさを千歳は自分に追求するまでもなかったが、今度の破門についても、父が、慶四郎を今一年もしたらまた、迎い入れようという下心を娘達に話さなかったら