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よつや、あかさか

四谷、赤坂

宮島 資夫

線上閱讀宮島 資夫《四谷、赤坂(よつや、あかさか)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,947 字 · 18 頁

青空文庫

太い枝が、土手の傾斜に添うて、人間の丈より少し高く、工合よく突き出ていた。あの松の下を通ると何となく、死にたくなる、といって人々は恐れていた。紀の国坂下の濠には河童がいるというのであった。雨の降った晩には、笠をかぶって徳利を下げた小僧が歩くとか、人力で坂を上ると途中で急に重くなるとか、それがみんな河童だった。

高力松から喰違い見附まで、あの濠端は、子供の頭に無気味な印象を深く残した。

が、然し今日では、濠は、大半埋められた。土手の下には公設市場さえ立った。電車が走り自動車が飛ぶ。喰違い見附下の、活動写真館の電気は、夜も濠を明るく照らす。河童も死神も、存在の余地を全く失ってしまっている。

甲武線の開通は、文明開花の光によって、この辺の陰気な空気を破った第一歩だ。明治二十何年かはっきりとは憶えていない。それから後も、狸が汽車の真似をしてひき殺されたというような、滑稽な話はあったが、以前のような凄みはなくなった。出来たてのトンネルの赤煉瓦に、兜の飾りをつけたのが、子供の眼には物々しく美しかった。

工事中に明治天皇の銀婚式があった。工事の土で、田圃のように埋った濠の中に、大きな鶴と亀との細工物が出来た。