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どひょうのゆめ

土俵の夢

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《土俵の夢(どひょうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,378 字 · 9 頁

青空文庫

やがて息づまるような静寂の空気が一ぺんに切って落されると、四階、五階の大衆席からどっと割れかえるような歓呼のさけびが起り、四囲の壁から壁に反響する声が中空にぶつかって、交錯する外光が土俵の周囲に靄のように立ち迷うのである。この混沌たる色彩の、沁み入るばかりに絢爛たる光縞が描きだす一種幻怪な官能の世界に聳え立つものは古色蒼然たる土俵なのである。素っぱだかの肉体が示すグロテスクな美しさもこの雰囲気の背景を俟ってこそはじめて古典の完成に導かれるのである。

今日、土俵の精神的要素がどのように重んぜられたとしても、古典美を完成する生活様式――土俵につながる雰囲気は到底望むべくもないであろう。仮りに何ものかの力、土俵をなつかしむ民衆の愛情によって、ある時期、これを支え得ることができたとしても、崩壊すべきものの運命にはおのずからにして限界がある。今日の国技館はすでに昨日の国技館ではない。相撲はやがて没落し、分裂し、その精神と原始的な形式だけが民衆の生活の中に陥没して、そこからふたたびあたらしい形式を築きあげてくるであろう。私が相撲への関心をうしなったのは、太平洋戦争勃発とともにフィリッピンに向かう宣伝部隊員として徴用をうけ、一年を戦場にすごして帰ってから胃潰瘍のために起臥の自由をうしない、その後数年間、土俵を見る機会