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こうふ

坑夫

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《坑夫(こうふ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 141,690 字 · 283 頁

青空文庫

ただそのままの姿勢で向うの壁を見詰めていた。身体が動かないから、心も働かないのか、心が居坐りだから、身体が怠けるのか、とにかく、双方相び合って、生死の間に彷徨していたと見えて、しばらくは万事が不明瞭であった。始めは、どうか一尺立方でもいいから、明かるい空気が吸って見たいような気がしたが、だんだん心が昏くなる。と坑のなかの暗いのも忘れてしまう。どっちがどっちだか分らなくなって朦朧のうちに合体稠和して来た。しかしけっして寝たんじゃない。しんとして、意識が稀薄になったまでである。しかしその稀薄な意識は、十倍の水に溶いた娑婆気であるから、いくら不透明でも正気は失わない。ちょうど差し向いの代りに、電話で話しをするくらいの程度――もしくはこれよりも少しく不明瞭な程度である。かように水平以下に意識が沈んでくるのは、浮世の日が烈し過ぎて困る自分には――東京にも田舎にもおり終せない自分には――煩悶の解熱剤を頓服しなければならない自分には――神経繊維の端の端まで寄って来た過度の刺激を散らさなければならない自分には――必要であり、願望であり、理想である。長蔵さんに引張られながら、道々空想に描いた坑夫生活よりも、たしかに上等の天国である。