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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《夜の構図(よるのこうず)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 頁

青空文庫

あたし、すっかり本当のこと話してやったのよ。怒ったわよ」

「そりゃ怒るだろう」

と、信吉は軽薄に言った。

「でも、しまいには、過ぎ去ったことは仕方がない、僕は許します――と言ったわ。あたし、その言葉をきいて、むかッとしたの。許してなんかほしくないわ、だいいちまだ過ぎ去ってないわよ、これからあの方に会いに行きます――と、こう言って、静岡でひとりで降りてしまったの」

「で、東京へ引き返して来たの……?」

と、信吉は判り切ったことを、きいた。

「ええ――」

半泣きの顔でうなずいたが、すぐ媚をふくんだ眼で信吉の顔を覗きながら、

「――いけなかった……?」

「いや、いけなかないさ」

と、信吉は煙草に火をつけようとして、マッチを擦った途端、そうだ、このマッチはあの女がくれたのだっけ――と、冴子のことを想い出した。

明日冴子が来る。伊都子がいる。これは困ったことだと、信吉は眉をひそめた。何たるエゴイズム!

「いやな許嫁に処女を捧げるよりは……」

と、昨日伊都子は信吉に身を任せた。知り合って――というより、はじめて会うて一時間のちには、もう信吉の胸に身を投げていた。これは恋とは言えぬだろう。