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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《夜の構図(よるのこうず)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 頁

青空文庫

時間をきいたのは、必要があってきいたのではない。冴子が約束どおり来たということ、そして、ロビイに信吉が見当らぬので、受付へ立寄って、わざわざ部屋へ電話を掛けさせたことが、信吉には何かうれしかったのだ。だから「すぐロビイへ行きます」といそいそと言おうとしたが、何か照れた。きかなくてもいい時間をきいたのである。いわば、よろこびのリズムを中断させるような、科白を※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)入したというわけだった。厄介な男だ。

顔を洗って、あわててエレヴェーターに乗り、受付へ行ったが、冴子はそこにはいなかった。

「須賀さんでいらっしゃいますか」

と、受付の女が声を掛けた。その声に聴き覚えがある。電話の声だ。眼元のぱっちりした色の白い娘だった。あ、こんな清潔な娘が受付にいたのかと信吉は眼を見はった。

「はあ」

「御面会の方は、喫茶室にいらっしゃいます」

「ありがとう」

「いいえ」

ちらと、受付の女と視線が合った。

信吉はふっと、しびれるような、なつかしさを感じた――と言ったら、読者は驚くだろうか。

顔を見るまでに、電話の声をきいていた――ということが、こんなになつかしい想いをさせるのだろうか。